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京都地方裁判所 昭和60年(行ウ)13号 判決

原告

山崎かよ子

原告

山崎慎三

右親権者母

山崎かよ子

原告

野神梶雄

原告

野神貞子

原告

野神収子

原告

山崎種三

原告

解脱会京都洛東支部

右代表者代表役員

荒井兼三

原告

山崎明實

右原告ら訴訟代理人弁護士

山崎浩一

被告

京都市長

今川正彦

右訴訟代理人弁護士

中元視暉輔

主文

一  被告が小溝智江の申請により昭和三七年六月二五日第八八一号をもつてした建築基準法四二条一項五号の道路位置指定処分は有効であることを確認する。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  原告らの求める判決

主文と同旨。

第二  被告の求める判決

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

第三  原告らの請求原因

一  被告は、小溝智江の申請により、昭和三七年六月二五日第八八一号をもつて、建築基準法四二条一項五号の道路位置指定処分をした。

二  本件道路位置指定処分の対象となつた道路は、京都市東山区今熊野総山町一番一二ないし一五、一七(以下同町所在の土地は地番のみで呼ぶ)の土地及びその東側に存する部分の一番三の土地のうち、一番三の土地の東端より巾四メートルの部分の土地であり、この部分には両端に京都市指定U型側溝が設置された道路(以下本件私道という)が既に築造されていた。

三  原告山崎かよ子及び原告山崎慎三は一番一三の土地を、原告野神梶雄、原告野神貞子及び原告野神収子は一番一四の土地を、原告山崎種三は一番一五の土地を、原告解脱会京都洛東支部は一番一七の土地を所有している。また、原告山崎明實は一番一五の土地上に建物を、原告解脱会京都洛東支部は一番一七の土地上に建物を所有している。

四  被告は昭和六〇年一月二一日付書面をもつて原告らに対し、本件道路位置指定処分を無効として取扱う旨を通知し、これを当然無効と主張している。

五  しかし、本件道路位置指定処分は有効であるから、その旨の確認を求める。

第四  請求原因に対する被告の認否

一  請求原因一、三、四の事実は認める。

二  請求原因二の事実は否認する。本件道路位置指定の対象となつた道路は、一番一二ないし一五、一七の土地のうち東側巾四メートルの部分である。

第五  被告の抗弁

本件道路位置指定処分は次の事由により当然無効である。

一  本件道路位置指定処分の対象が原告ら主張のとおり本件私道であるとすると、その一部である一番三の土地については、その所有者の承諾書が欠けている。

二  本件道路位置指定処分の対象が原告ら主張のとおりとすると、それらの土地と京都府道勧修寺今熊野線との間に一番一一の土地が存在し、その所有者の片山辰之助の承諾も欠いているから、右処分には建築基準法一四四条の四第一号の要件を欠いた重大な瑕疵がある。

第六  抗弁に対する原告らの認否

一  申請書には承諾書の添付を欠いているが、申請のころに一番三の土地の所有者村田宗一の承諾を受けている。

二  本件私道は京都府道勧修寺今熊野線に接続しており、一番一一の土地は本件私道には含まれていない。

第七  証拠〈省略〉

理由

一道路位置指定処分

1  被告が昭和三七年六月二五日第八八一号をもつて、建築基準法四二条一項五号の道路位置指定処分をしたことは当事者間に争いがない。そこで右道路位置指定処分の対象となつた道路について判断する。

2  〈証拠〉及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができ、この認定を覆すに足る証拠はない。

(一)  一番地三の土地付近の旧土地台帳付属図面は別紙公図のとおりである。現地における土地の位置関係も大略は右図に記載のとおりであつた。

(二)  昭和三六年六月より昭和三七年六月までの間における土地所有者は、一番三 村田宗一、一番九と一番一〇 藤場勝二、一番一一 片山辰之助、一番一二 若林政吉ほか、一番一三 谷口スエ、一番一四 小溝智江、一番一五と一番一六 後藤寿登、一番一七 荒巻甫であり、これらの者が不動産登記簿上も所有者として登記されていた。ただ一番一二は登記簿上の所有者は若林とみとなつていたが、同人が昭和三七年三月二七日死亡したことにより若林政吉ほかが相続したものであつた。

右の各土地は全て村田宗一所有の一番三から分筆され、昭和三二、三三年ころ住宅地にするために売渡されたものであつた。

(三)  一番一二ないし一五、一七の土地の東側には、巾約七〇センチメートルの山道が存しており、この山道は一番三の土地の一部であつた。

(四)  右の山道に面した土地を購入した一番九、一〇、一二ないし一七の土地の所有者らは、右の山道を広いものに造り変えて、道路位置指定を受け、法律上も自己所有地に建物を建てられるようにしたいと考え、京都市役所建築指導課とも相談のうえ、右の山道のほかに一番一二ないし一五、一七の土地の東側の一部を用いて巾四メートルの道路を築造し、その西側には次記申請書添付図面にあるとおりの擁壁と道路両端に京都市規定U型側溝を設けた。これが現地に現在も存している本件私道である。

(五)  小溝智江は、昭和三六年六月三〇日、一級建築士岩田嘉夫を代理人として、京都市東山区役所を通じ、被告に対し道路の位置の指定申請書を提出した。この申請書には、次のとおり記載があつた。

土地の地名地番 京都市東山区今熊野総山町一―九番地外七筆

指定を受けようとする道路 幅員四メートル、延長九八メートル

明示方法 京都市規定U型側溝による

地番別権利者概要 一―九、一―一〇

藤場勝二、一―一二 若林とみ、一―一三 谷口スエ、一―一四 小溝智江、一―一五、一―一六 後藤寿登、一―一七 荒巻甫

別紙

(六)  右申請書に添付して提出された図面には、別紙公図と大略同じの簡略な図面上に各土地の位置、境界、地番が示され、一番一二ないし一五、一七の各土地の東端部分に申請する道路の位置が示されているが、同時に右図面の道路の一か所(B―B′線)における横断図も示され、それには、右道路の西側に接して上部に間知石擁壁が、続いて道路端にU型側溝(幅五五センチメートル)、道路面、再び同様のU型側溝、コンクリート面、それより東下に間知石擁壁がある旨が示されている。

(七)  右申請書には、一番九、一〇、一二ないし一五、一七の土地の各所有者の、右道路位置指定を承諾する旨の書面が付されていたが、一番三の土地の所有者村田宗一、一番一一の土地の所有者片山辰之助の承諾書は添付されていなかつた。

(八)  小溝智江ほか一番九、一〇、一二ないし一七の土地の所有者は、前記(四)のとおり築造された本件私道について、建築基準法四二条一項五号の道路位置指定を受けたいと考えて、右(五)の申請、承諾をしたものであつた。

(九)  道路位置指定を担当する京都市住宅局建築課の職員は現地において前記の本件私道が完成し、この道路巾が四メートルあり、前記(六)の横断図のとおりの構造をしていることを確認し、本件私道部分が申請にかかる道路であると考え、申請どおり道路位置指定するのが相当であるとし、昭和三七年六月二五日代決権者の住宅局長の決済を得て、本件の道路位置指定処分がされた。

(一〇)  被告は、小溝智江に対し、昭和三七年六月二五日指定第八八一号の道路の位置の指定通知書を、そのころ交付したが、これには、この書類及び添付図書に記載の道路は、申請書に基づいて位置の指定をしたので通知する旨、及び土地の地名地番、指定を受けようとする道路、明示方法、地番別権利者概要の欄には右(五)の申請書におけると同様の記載がされていた。右にいう添付図書とは、申請書添付図面と同一のものを示す趣旨であつた。

(一一)  被告は、昭和三七年七月一二日発行の京都市公報第二一三五号において、同日付告示第一〇二号をもつて、建築基準法四二条一項五号の規定にもとづき、次のとおり道路の位置を指定した旨、その関係図面は、京都市住宅局において一般の縦覧に供する旨を告示した。

指定番号 第八八一号

指定年月日 昭和三七年六月二五日

道路の幅員 四・〇〇メートル

道路の延長 九八・〇〇メートル

道路の位置 東山区今熊野総山町一番地の九外七筆

申請者 小溝智江

被告は右告示日より京都市住宅局において、右関係文書として前記(六)の申請書添付図面と同一のものを、一般の縦覧に供した。

(一二)  京都市建築主事は、昭和四〇年五月一番一七の土地につき、同五二年一二月一番一五の土地につき、同五七年二月一番一四の土地につき、地上建築物の計画に建築確認を与えたが、これらの建築確認は、本件私道につき道路位置指定がされていることを前提とするものであつた。

(一三)  被告主張の土地部分には、本件私道と重複する部分を除いては、道路が現実に存在したことはない。

3  本件道路位置指定の行政処分は、右2(一〇)認定の通知によりされ、更にこれが右2(一一)の告示により一般に知らしめられたものと解されるから、この行政処分の内容の解釈にあたつて、まず考慮すべきものは、右の通知書及び告示と縦覧図面である。そこでこれらを検討する。

(一)  通知書の地名地番欄には「一―九番地外七筆」と、地番別権利者概要の欄には一番九、一〇、一二ないし一七の土地が記され、告示において道路の位置として一番地の九外七筆と記されている点だけからみると、行政処分の対象となる土地は、一番九、一〇、一二ないし一七の八筆の各土地のうち一部分ともみられる。

(二)  他方、通知書に引用され、縦覧された図面では、公図と大略同じ図面が記され、その一番一二ないし一五及び一七の土地の東端部分に道路が存するように記載されている点だけからみると、行政処分の対象となる土地は、一番一二ないし一五、一七の五筆の土地のうち東側四メートルの部分だけであつて、一番三の土地は勿論、右(一)における一番九、一〇、一六の土地をも含まないようにみえる。

(三)  また、通知書に明示方法として「京都市規定U型側溝による」との記載があるところ、前記甲一九号証によると同通知書には「条件」の欄も存するのに、その欄は空白であつて、将来道路を築造する際に「京都市規定U型側溝」を設置して指定範囲を明示すべき旨の条件は記載されていないと認められること、右通知当時には本件私道は完成し、その範囲は京都市規定U型側溝により明らかであつたことからすると、右通知書における明示方法欄の記載は、道路位置指定の行政処分の対象となる土地は、現地において京都市規定U型側溝により明示された範囲の道路の土地であることを示したものと解される。更に縦覧され、通知書に引用の図面には、道路横断面が示されているところ、一般公衆に縦覧する図面に未だ築造されていない道路の「予定」横断図を示すのは無意味であり、混乱を招きかねないこと、通知書の条件欄にも右のような構造の道路を築造すべき旨の条件の記載はないこと、右通知当時には既に右横断図に示すような構造の本件私道が完成していたことからすると、右図面における横断図の記載は右横断図のような構造を持つた道路の土地が右行政処分の対象土地であることを示したものと解される。これによれば、本件道路位置指定の対象土地は本件私道であつて、それは一番三、一二ないし一五、一七の土地の一部分となる。

右のとおり、道路位置指定の通知書や告示、縦覧図面の個個の部分を取上げると、対象土地の範囲について矛盾した記載が存する。

4  しかしながら、前記2に認定の事実関係の下では、本件道路位置指定の対象土地は、右3(三)のとおり本件私道の土地部分と解するのが相当である。その主な理由は次のとおりである。

(一)  地番(前記3(一))や簡略な図面上の記載(前記3(二))に比すると、現地に存在する固定物件を用いた土地の特定は、第一に正確である。裁判所における土地関係訴訟においても、ある地番の土地の一部を特定するには、電柱、マンホール、塀、U型側溝など土地上の固定物件を手がかりとして土地範囲を明確化するのを例としている。第二に、現地に存在する物件を用いた特定は、測量、地番境界確定などの特殊な技能、知識を有しない人にとつても、建築制限等の効果(建築基準法四四条、四五条)、それに面して建築をしうる効果(同法四三条)を持つ土地範囲を判断するに当つて、明確である。そうすると、前記のとおり通知書、告示において複数の解釈があるかのような記載がされている場合には、その中で最も正確、明確に対象土地を特定できるような方法で表示された土地について処分がされたと解するのが相当である。

(二)  前記2(四)、(八)、(一〇)のとおり、本件道路位置指定の申請人、承諾者も、指定の行政処分をした担当職員らも文書の上ではともかく、現実に築造された本件私道について道路位置指定を求め、指定をする意思であつたことは、本件の行政処分の内容の解釈に当り補充的に考慮することが許されるべきである。

(三)  建築基準法四二条一項五号の道路位置指定は、現に道路が築造されていなくともなすことができるから、現実の道路とは一致しないことも生ずる。しかし、道路が現実に築造されたのちに、その道路の範囲の土地について道路位置指定をすることも許されるところであつて、このような場合に、指定される土地(道路)の範囲を、現に築造された道路に関する固定物(例えば、U型側溝)を用いて特定することも許されることも当然のことであつて、そのようにして特定することが道路位置指定の基本的性格に反するものではない。

二原告適格

前記判断のとおり、本件道路位置指定のされた道路は、本件私道であり、これは一番三、一二ないし一五、一七の土地の一部分である。原告ら(原告山崎明實を除く)が、一番一二ないし一五、又は一七の土地を所有し、原告山崎明實及び原告解脱会京都洛東支部が右土地の一部の上に建物を所有していることは当事者間に争いがない。右事実によれば、原告らは本件道路位置指定処分の効力に関する本件訴えを提起する利益を有する。

三本件道路位置指定処分の効力

1  本件私道の一部は一番三の土地に属するところ、当時その所有者であつた村田宗一の承諾書が指定申請書に添えて提出されなかつたことは当事者間に争いがない。

〈証拠〉によれば、小溝智江と後藤寿登とは、昭和三六年ころ、京都市東山区山科西野山桜馬場町二三九番地に居住していた村田宗一を訪ね、同人所有の前記山道に、西側に隣接の土地の一部を加えて、巾約四メートルの道路を築造して、道路位置指定を受けたいと申し出て、同人の承諾を得たことが認められ、この認定を覆すに足る証拠はない。

道路位置指定申請には、道路の敷地となる土地の所有者の承諾書を添えて提出しなければならないとされている(建築基準法施行規則九条)が、その所有者が実際にその道路位置指定に承諾していたときは、承諾書が添えられなかつた瑕疵は、その申請にもとづく道路位置指定を、その所有土地についても、無効とするものではないと解される(大阪地昭和五一年(行ウ)七号、五九号同五四年四月一七日判決・判例タイムズ三九五号一二四頁、東京地昭和五六年(行ウ)一二三号同五九年九月二〇日判決・判例地方自治一一号一一〇頁)。

2  〈証拠〉によれば、本件私道は京都府道勧修寺今熊野線に接続していること、本件私道には一番一一の土地は含まれていないことが認められる。

3  本件道路位置指定を当然無効とする事実については、被告より他に主張がないから、右処分は有効というべきである。

四結論

そうすると、原告らの請求は正当であるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官井関正裕 裁判官田中恭介 裁判官榎戸道也)

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